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最高裁判所第三小法廷 平成9年(オ)775号 判決 1997年9月09日

大阪市西区立売堀一丁目一一番八号

上告人

日本空気力輸送装置株式会社

右代表者代表取締役

小泉恭男

右訴訟代理人弁護士

相馬達雄

山上賢一

塩田武夫

被上告人

右代表者法務大臣

松浦功

右指定代理人

山岡徳光

右当事者間の大阪高等裁判所平成七年(ネ)第三四九号不当利得金返還請求事件について、同裁判所が平成九年一月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人相馬達雄、同山上賢一、同塩田武夫の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信 裁判官 山口繁)

(平成九年(オ)第七七五号 上告人 日本空気力輸送装置株式会社)

上告代理人相馬達雄、同山上賢一、同塩田武夫の上告理由)

一、第一、二審を通じて上告人は同会社主張にかかる具体的事実の詳細を陳述してきている。

即ち、

<1>、本件プラント輸出については、先ず、一〇〇ケース以上にも分けて梱包されたバラバラの部品が神戸の指定倉庫へ出荷されたのであった(昭和四九年一二月末日頃から同五〇年四月頃までの間、約四回に分けて出荷された)。

第一、二審判決は、この時点において本件売り上げ計上をなし、所定の納税をなすべき義務が上告人会社に存したものとしている。

然し乍ら、右時点においては、正にバラバラの部品であって、同買主において、如何なる取り扱いもなし得ないものであった。尚、右代金は、昭和四九年一二月より同五〇年九月にかけて、四回にわけて支払われており、昭和五〇年五月には、いまで、その一部しか支払われていなかったのである。

本件の如きプラント輸出については、右各機械部品が現地工場で据え付けられ、それが「装置」となって可動することが試運転によって証明され、買主において一定の運転技術を修得し、その後、最終的な検収がなされた後、引き渡されることになるのである。

斬くてこそ、上告人が売主として契約履行を債務の本旨に従って完全履行したこととなり、従って、対価たる売買代金を受領しうることとなるのである。

本件機械については、その据え付け、組み立て、試運転に関し、極めて、特殊の技術、知識、経験を必要としており、上告人会社以外の余人を以って右作業をなしうることは全く不可能であった。

上告人会社のみが、製作技術を有する全く特殊の装置であり、上告人会社代表取締役小泉恭男が長年の研究によって発案した「装置」なのであった。

従って、本件契約に当たり、バラバラ部品のみの納入を以って契約履行がとりあえず終了したものとは到底言えないのである。

問題は現地における据え付け、組立、試運転なのであった。

買主は「装置」を購入しているのであって、部品を購入しているのではないのである。だから、本件契約の主たる部分は右「装置」の完成であり、それによってこそ、買主に具体的な代金支払い債務が発生するのであった。

以上の点は第一、第二審において縷々陳述せるところであり再説しない。

<2>、斬くて、右「装置」の完成、試運転の成功までに、特殊的な観点から(第一、二審において主張のとおり)、支払いのなされていた代金については、正しく、「仮払い」にすぎぬものであった。

右試運転の成功がなければ、右代金は売主の債務不履行により返還しなければならぬことは当然であった。

右事理についても、本件取り調べずみの各証拠によって明白である。

だからこそ、右出荷後、約二年を経て、幾多の試運転の後、本件「装置」を完成し、検収を了したのであった(昭和五二年一〇月二六日、検収書交付)。

従って、本件売り上げについては、昭和五三年五月期になされるのが当然であり、公正にして、正確な会計処理なのであった。

この点についても、既に、縷々陳述せるところである。

<3>、しかるところ、国税局査察官等の、強制的と言うよりは、正しく、脅迫的な慫慂により、本件修正申告がなされるに至ったのである。

右慫慂の具体的内容についても、第一、第二審において詳述せるところである。

即ち、上告人において、客観的に、明白かつ重大な錯誤により本件修正申告をなしたものと言わざるを得ず、法定の方法以外にその是正を許さないならば、正に、納税義務者の権利を著しく害すると認められる特段の事情が存する場合に該当するのである。

二、以上の各事実については、第一、二審において取り調べずみの各証拠によって、客観的に、明白に認定しうるところと言わねばならないと思料する。

そもそも、事実認定は論理に則し、日本社会における一般常識的な経験則に違背することがあってはならないのは当然である。

しからざれば、民事訴訟法第一八五条違反であることは論は俟たない。経験則違背が民事訴訟法第三九四条所定の法令違背にあたるか否かについては議論の存することろであるが、高度の蓋然性をもって一定の事実を推論せしめる経験則の無視・誤用の場合及びこれと同視すべき論理法則違反の場合は上告理由になるものと解すべきである。

経験則違背の事実認定は民事訴訟法第四〇三条所定の「適法に確定した事実」とは言えないのである(最判昭和二四・九・六民集三巻一〇号三八三頁、最判昭和三六・八・八民集一五巻七号二〇〇五頁等)。

本件に即して言えば、提出済みの各般の証拠により、本件取引が部品のバラ売りではなく、「装置」の完成、引き渡しにあることは明々白々であり、右引き渡しによってこそ、買主側に、確定的に、右「装置」代金の支払い債務が具体的に発生することも当然の法理であった。

しかるところ、第一、二審判決の事実認定は、本件各証拠上、客観的に、かつ、明白に肯定しうる論理又は経験則に違反していると言わねばならず、従って、上告の趣旨記載どおりの判決を求めて、本件上告に及んだ次第である。後日、必要があれば、若干の上告理由補遺はなしたい。

以上

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